浪速府で発生した新型インフルエンザ「キャメル」。致死率の低いウイルスにもかかわらず、報道は過熱の一途を辿り、政府はナニワの経済封鎖を決定する。壊滅的な打撃を受ける関西圏。その裏には霞が関が仕掛けた巨大な陰謀が蠢いていた―。風雲児・村雨弘毅府知事、特捜部のエース・鎌形雅史、大法螺吹き・彦根新吾。怪物達は、この事態にどう動く…。海堂サーガ、新章開幕。(「BOOK」データベースより)
海堂尊の物語は、彼が医者として力を入れている死亡時画像病理診断(オートプシー・イメージング:Ai)についての想いを前面に打ち出した作品群と、それ以外の作品とに分かれていると思います。残念ながら前者の作品群は作者の想いが強すぎるのか、頭の良さが先走るのかは分かりませんが、読者はおいていかれ、物語自体の面白さは後者の作品群に比して半減していると感じます。そして、本書は残念ながら前者の作品群に属しているのです。
本書の「第一部 キャメル」は、新型インフルエンザ「キャメル」によるパンデミックを思わせる内容で、パニック小説のイントロとしてかなり期待を持たせています。
「第二部 カマイタチ」では場面は東京地方検察庁へと移り、時代も一年ほど遡っています。東京地検特捜部のエース鎌形雅史が浪速地検特捜部へ異動し、浪速府の村雨知事と彦根の思惑は鎌形の取り込みを図りますが、ここでの会話はなかなかについていけないものがありました。この時点で先に述べた前者の作品群の話だと思われ、興味は一気に薄れてしまいます。
特に問題は「第三部 ドラゴン」で、先述したAiの話が展開します。その上で日本の変革の話へと話は移り、当初のよくできたパニック小説という雰囲気から、とんでも話へと、それも読者不在の独りよがりの話へと一大転換してしまうのです。
この作家の頭が良いのは分かりますが、話についていけない読者のことも考えてくれたらといつも思います。それではこの作者の醍醐味は無くなってしまうのかもしれませんが、第一作の「チーム・バチスタの栄光」や「ブレイズメス1990」などは医療小説としても非常に面白い作品があるのですから、このタッチで進めてもらえたらと思うのです。
特に「ジェネラル・ルージュの伝説」は一番私の好みに合っていました。物語にスピードがあり、ヒーローがヒーローとして活躍する定番の話ではるのですが、緊急医療の現場の緊迫感など現場を知る者ならではの面白さを感じたものです。
ま、こんな意見は他では見ないし、本書も面白いという読者が多くいることを考えると、ついていけない読者の愚痴としか言えないのでしょうね。