勝ち残り生き残るたびに、人の恨みを背負わねばならぬ。それが剣客の宿命なのだ剣術ひとすじに生きる白髪頭の粋な小男・秋山小兵衛と浅黒く巌のように逞しい息子・大治郎の名コンビが、剣に命を賭けて、江戸の悪事を叩き斬る田沼意次の権勢はなやかなりし江戸中期を舞台に剣客父子の縦横の活躍を描く、吉川英治文学賞受賞の好評シリーズ第一作。全7編収録。(「内容紹介」より)
剣客商売シリーズの第一巻目で、七編の連作短編が収められています。
随分と昔に一度は読んだ作品ですが、図書館で目の前に並んでいたのを見て、再度読み返す気になったものです。
いざ読み返して見ると、内容は勿論覚えていなかったので実に面白く読み終えることができました。と同時に、池波正太郎という作家のうまさ、凄さを改めて感じたものです。
とにかく、読み始めて一、二頁で物語の雰囲気がきちんと構築されて読み手に提示され、一気に物語世界へと引きずり込まれてしまい、小兵衛と大二郎、三冬らの織りなす物語から目を話せなくなってしまいました。
第一話で、秋山小兵衛、その妻おはる、そして大治郎についての現状の説明があって、それぞれの住まいの風景などが描かれています。その描写が実に滑らかで、美しく、何もしないままに物語の世界へと誘われています。
とにかく、物語の流れが実に自然であり、登場人物が生き生きと活躍しています。以前読んだ時も面白く読んだという記憶はもちろんあったのですが、これほどの面白さがあったとは改めてこのシリーズお面白さを思い知らされているところです。
第一話「女武芸者」
秋山大治郎は、五十両である人物の両腕を叩き折って欲しいと頼まれるがこれを断ってしまう。この、腕を折る相手というのが三冬だった。この話は、三冬が結婚の条件として自分よりも腕の立つこと、という条件をつけたため、相手の親が図ったことだった。
第二話「剣の誓約」
ある日、大治郎のもとを小兵衛の弟弟子であり大治郎の第二の師でもある嶋岡礼蔵という老武士が訪ねてきた。十年前の立会の約定のがあるという。その使者として柿本源七郎という武士を訪れると伊藤三弥という若者がいた。
第三話「芸者変転」
石川甲斐守の息子源太郎の不始末をもとに強請をかけようとする御家人山田勘介の企みを耳にした小兵衛の活躍。
第四話「井関道場・四天王」
藤堂家の藩士である後藤九兵衛、浪人だが一番の腕だろう渋谷寅三郎、五千石の大身旗本小沢石見守利秀の次男の小沢主計、それに三冬を合わせた四人を井関道場の四天王呼ぶ。その井関道場で跡目争いが起き、三冬が小兵衛に相談に来た。
第五話「雨の鈴鹿川」
本書第二話「剣の誓約」で命を落とした嶋岡礼蔵の遺髪を携え大和の国へ行った帰り、大治郎はかつて嶋岡礼蔵のもとで修業をしていた井上八郎に出会った。井上は、敵持ちの知り合いの助太刀をするために桑名に向かうという。その話を聞いた大治郎は共に桑名へと向かうのだった。
第六話「まゆ墨の金ちゃん」
もと牛堀九万之助に厄介になっていた三浦金太郎という男が、大治郎の命が危ないといってきた。金太郎も襲撃者の仲間になるというのだった。
第七話「御老中毒殺」
歯ぬけ狸こと飯田平助をみかけたことから父田沼意次の毒殺計画を知った三冬は小兵衛とともに毒殺計画を未然に防ぐのだった。飯田粂太郎を大治郎の弟子として推挙するのだった。