池井戸 潤

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取引先大企業「来月末までで取引終了にしてくれ」メインバンク「そもそも会社の存続が無理」ライバル大手企業「特許侵害で訴えたら、…どれだけ耐えられる?」帝国重工「子会社にしてしまえば技術も特許も自由に使える」―佃製作所、まさに崖っプチ。(「BOOK」データベースより)

そもそも、池井戸潤の小説を読む気になったのは、普段テレビドラマは見ない私が「半沢直樹」のあまりの評判のよさにつられて、阿部寛主演のテレビドラマ「下町ロケット」を見たところ思いのほかに面白かったからでした。本書はそのテレビドラマ版「下町ロケット」の前半部分の原作に当たる作品です。

それ以前に池井戸潤の書いた小説として『民王』は読んだことがあったのですが、痛快エンタメ政治小説と銘打ってあったわりには、普通の親子の物語の印象しかなく、池井戸潤という作家の名前はあまり良いものではありませんでした。

しかし、本書は引きこまれました。この作家の一番得意とする銀行の物語ではなく下町の中小企業を舞台とする物語でしたが、たたみ掛けるように襲いかかる倒産の危機を、社長を始めとする社員が一丸となり不断の努力をもって生き残るという、まさに痛快小説そのものの面白さでした。これ以降、池井戸潤の作品を読むようになったものです。

池井戸潤の小説の面白さは、主人公のキャラクタの造形のうまさはもちろんですが、襲いかかる危機の描き方のうまさにあるようです。本書で言えば企業の資金繰りの困難時のメインバンクの対応や、ライバル大手企業からの特許権侵害訴訟、大企業である帝国重工の佃製作所の技術力に目をつけた特許権買収劇等々です。

個々の状況自体はありがちな状況として定番なのかもしれませんが、物語の流れの中で立ちはだかってくる困難として見ると、それなりのリアリティを持って読者の心に落ち着いてくるのです。そしてその状況が主人公らの必死の努力で解決される。

面白い映画は筋だけを追えば非常に単純であるとは、どこかで聞いた言葉ですが、小説の場合も同じようです。対立軸を明確にして単純化した方が分かりやすく、面白いのでしょう。ただ、そのリアリティを残したまま物語の構造を単純化する作業が難しいのは素人でも分かる話で、その作業が池井戸潤という作家の上手いところです。

企業小説と言えば、私は古くは 城山三郎を思いまします。この人の著わした『価格破壊』という小説は、今は無くなってしまったスーパーダイエーの創業者である中内功をモデルに書かれた物語です。町の小さな薬局の店主であった一人の男が、大企業を相手に一円でも安い商品を提供するという信念のもとに日本全国を駆け回るという、実に爽快な、それでいて流通業界の仕組みも垣間見せてくれる小説でした。

近年で言えば、出光興産の創始者である出光佐三をモデルに、 百田尚樹が書きあげた『海賊とよばれた男』があります。この作品は本屋大賞も受賞し、大ベストセラーにもなった作品ですが、クライマックスの「日章丸事件」は私の幼い頃の記憶として残っていることもあり、感動的な物語として読みました。同じ作者の『永遠の0』と同様に岡田准一主演で映画化されています。

以上の二作品に関しては実在の人物をモデルに書かれた企業小説ですが、本書はそうではなく、経済小説特有の面白さに、痛快小説の爽快さを加味して練り上げられた小説です。端的に言えば、あのテレビドラマ『半沢直樹』の原作者である池井戸潤が著した企業小説ですので面白くない筈がないのです。

[投稿日]2017年02月10日  [最終更新日]2017年2月10日
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