池袋署強行犯捜査係担当係長・姫川玲子。所轄に異動したことで、扱う事件の幅は拡がった。行方不明の暴力団関係者。巧妙に正体を隠す詐欺犯。売春疑惑。路上での刺殺事件…。終わることのない事件捜査の日々のなか、玲子は、本部復帰のチャンスを掴む。気になるのは、あの頃の仲間たちのうち、誰を引っ張り上げられるのか―。(「BOOK」データベースより)
四作目の「インデックス」以降が、前作長編『ブルーマーダー』以降の物語です。
「アンダーカヴァー」
とある会社の社長が自殺したが、その死の裏に不審なものを感じた姫川玲子が、関西弁をしゃべるブランド好きのブローカーとなり潜入捜査をするという異色の作品です。
『インビジブルレイン』事件ののち、池袋署強行班捜査係に異動になってすぐの姫川の物語です。取り込み詐欺グループ捜査のためにに潜入捜査に乗り出す姫川です。容疑者と姫川とのやり取りが実に読み応えがあります。
テレビドラマ版(「ストロベリーナイト アフター・ザ・インビジブルレイン」)で放送された作品では、姫川がギラギラの派手な衣装を着て取り込み詐欺グループに乗り込み、エセ関西弁でまくしたてる場面が印象的でした。
「女の敵」
姫川が捜査一課殺人犯十係主任を拝命してすぐに、「ストロベリーナイト事件」で殉職した大塚真二刑事と組んで担当した変死体事案を回想します。
「彼女のいたカフェ」
賀地未冬は池袋の「ブックカフェ」に勤務していた時代に、法律の本を読む女性が気になっていた。その後未冬が再び池袋店に勤務することとなったのだが、予想もしない形であの女性と出会うのだった。
姫川の人となりを第三者目線で描いたシリーズの中異色作です。特に事件が起きるわけでもなく、一般第三者目線での姫川を描く、シリーズの中のちょっとした息抜き、といった掌編です。
「インデックス」
『ブルーマーダー』事件が犯人逮捕とはなったものの事件の詳細は未だ不明のままだった。そうした折、姫川は池袋署刑事課強行犯捜査係との併任で、本部の刑事部捜査一課への異動の内示を受ける。ただ、あの井岡も同じ刑事部捜査一課への併任配置であり、翌日から相棒としてブルーマーダー事件の捜査も行うことになってしまうのだった。
珍しく、姫川と本シリーズの名物男である井岡とが組んだ捜査を見せてくれます。いつも姫川につきまとい、姫川を辟易とさせている井岡ですが、刑事としての腕は確かなものがあるのです。
「お裾分け」
小金井署の特捜本部で、姫川を主任として本部から派遣されていたやりにくい三人とチームを組むことになる。何より、このチームには併任を解かれたはずの井岡まで参加するのだった。
この作品でも井岡と姫川との迷コンビの掛け合いが全編を貫いています。
「落としの玲子」
姫川と今泉とが飲んでいる席で、今泉は姫川の取り調べが下手だと言う。しかし、とある写真をきっかけに今泉と姫川との立場が逆転するのでした。
この作品も、シリーズの中での息抜き的な位置を占める作品です。いつも姫川を助けてくれる今泉とのほのぼのとした一シーンです。
「夢の中」「闇の色」
姫川班は、墨田区本所署管内で発生した刺傷事件の応援として本所署へ詰めることになる。被害者の峰岡里美に話を聞くと里美はなかなか意思表示をしません。不審に思った姫川が調べると、里美には子供がいることが判明する。
このシリーズの本来のトーンが戻ってきた、といえる作品です。何故にこの作品を短編二編に分けているのかよく分かりません。掲載雑誌との兼ね合いなのでしょうか。
本書の後に姫川玲子シリーズの『ルージュ: 硝子の太陽』という作品が出版されています。この作品は『ノワール-硝子の太陽』という作品と同時に発表されたもので、ノワールのほうはジウシリーズの流れをくむ物語となっています。この二作品は登場人物の一部が共通しており、姫川玲子シリーズとジウシリーズの流れをくむ新宿セブンシリーズとが、合流とまではいきませんが、世界を共通にするという仕掛けになっているのです。
本シリーズは、私の中ではこの手の警察小説の中では今一番のっている、面白いシリーズと言えるかもしれません。
本書はそうしたシリーズの中の隙間を埋める短編集であり、姫川玲子という人物を立体的に浮かび上がらせる一を占めると言えるでしょう。