畑野 智美

イラスト1
Pocket

文庫

集英社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは ふたつの星とタイムマシン (集英社文庫(日本)) [ 畑野 智美 ] へ。


タイムマシンなんてあるはずがない。でも、もし戻るなら2011年のあの日しかない―!美歩は過去の自分に大切なことを伝えるため、大学の研究室にあった謎の物体に乗り込んでみる…(「過去ミライ」)ほか、「超能力アイドル」を目指してテレビ出演をする女子中学生(「自由ジカン」)、家庭用ロボットを手に入れた男子大学生たち(「恋人ロボット」)などパラレルな世界の近未来で、ときめきや友情を描く全7編のSF短篇集。(「BOOK」データベースより)

本書の構成は

「過去ミライ」
過去の自分に会い、ある忠告をしようとする女子学生の物語。
「熱いイシ」
その石を持っていると、質問に対する答えが分かるという不思議な石の話。
「自由ジカン」
望み通りに時間を操ることができる中学生の物語。
「瞬間イドウ」
無意識に自分が思う場所へと瞬間移動するOLの物語。
「友達バッジ」
これをつけていると誰とでも友達になれるというバッジの話。
「恋人ロボット」
男子学生と恋人の美歩ちゃんと家庭用ロボットとの話。
「惚れグスリ」
田中君と長谷川さんと惚れ薬の話。

となっています。

本書の舞台となっている世界は、超能力が不思議ではない世界です。皆が超能力者というわけではないのだけれども、そうした能力の存在自体は不思議でもなんでもなく、超能力者の存在は認めている世界です。

そんな世界で、時間を止めたり、望み通りの場所へ瞬間的に移動したり、タイムマシンすら存在し、そうした能力を原因として、それぞれの物語でちょっとした事件が巻き起こるのです。

その様は実に普通のタッチで描いてあります。設定はSFでありますが、SFチックな出来事についての説明はありません。至極当然に超能力が存在するのですから、特別なことでない以上説明する必要もない、と言わんばかりです。言ってみればファンタジーの世界かもしれません。

そして、文章が普通です。美文調でもなく、難しい単語、言葉を使っているわけでもなく、普通です。ただ、どちらかというと短めの文章です。その普通の文章が、たたみ掛けるように展開され、登場人物の心理をさらりと表現し、読み手の心の中に入ってきます。

こうした文章に接するといつも思い出すのが、庄司薫の作品で第61回芥川賞を受賞し、当時かなり話題にもなった『赤頭巾ちゃん気をつけて』という作品です。この作品は、都立日比谷高校三年生の庄司薫くんのとある一日を描いただけの小説です。誰にでも書けるのではないか、と思わせられるような普通の文章で綴られたこの作品ですが、薫君が饒舌に語り続けているその言葉は、当時の社会の風景を的確に織り込みながら、一人の若者の内面を深くえぐり出しています。

思い出すとは言っても、やはり内容はかなり異なります。本書『ふたつの星とタイムマシン』の場合は、普通の文章で語られる物語全体のタッチが特別ではないということであって、薫君の方の高校生の感性を表現した饒舌さとはその性質からして違うようです。

本書の場合、ほとんどの物語が恋愛小説と言ってもいいような内容ですが、湿ったところが無く、からりと乾いています。誰にでも書けそうな文章で、全く毒のない内容を描いています。悪人もおらず、もちろん暴力もありません。客観的に事実を羅列しているようで、それでいてユーモラスでひねりも効いています。

本書の第一話は仙台の大学の平沼教授の教室の物語で、そこに既にあったタイムマシンで過去に行く物語です。この物語と最終話の「惚れグスリ」の話をもとにこの作家の『タイムマシンでは、行けない明日』という作品が書かれた、と言っていいのだと思われます。

同じようにロマンチシズム満載の時間旅行を得意とする梶尾真治の作品では、時間旅行についての科学的な根拠づけなどがあり、ひねり出したアイディアを十分に展開させる面白さがあります。

梶尾真治の場合、例えば『クロノス・ジョウンターの伝説』のように、タイムトラベルで時間異動をした結果巻き起こる不具合、そこで起こる人間ドラマそれ自体を物語として作り上げています。ところが、畑野智美の作品では、仮に不具合が起こったとしてもその状況を前提として物語は続いていくのです。

惹起された異常事態を修正しようとの努力までも無いとは言いませんが、修正の努力それ自体を物語とするのではなく、異常事態を常態として物語が進んでいくと言えばいいのでしょうか。

蛇足ながら、本書のカバー画も、お笑いコンビ、キングコングの西野亮廣が担当されています。『タイムマシンでは、行けない明日』の場合と同じく、なかなかに本書の内容にも沿った雰囲気のある装丁でした。

[投稿日]2017年09月02日  [最終更新日]2017年9月2日
Pocket

おすすめの小説

近時の日本SF小説

本書『ふたつの星とタイムマシン』とは異なり、軽く読める作品とは逆の読み応えのあるSF作品です。
つばき、時跳び ( 梶尾 真治 )
椿が咲き乱れる「百椿庵」と呼ばれる古屋敷には、若い女性の幽霊が出るとの伝説があった。そこで独り暮らすことになった主人公の作家は、ある日、突然、出現した着物姿の美少女に魅せられる。一五〇年という時間を超えて、思いを寄せ合う二人。
果しなき流れの果に ( 小松 左京 )
そのスケールの大きさ、着想力の凄さで日本SF界のベストだと思う作品。日本にもこう言う作品があるのだと胸を張って言える物語です。
百億の昼と千億の夜 ( 光瀬 龍 )
シッタータ(釈迦)や阿修羅王、帝釈天やナザレのイエスらが、アトランティスの昔から西暦4000年、そして更なるる未来にわたりこの世界の存亡をかけて戦う壮大な物語。
妖星伝 ( 半村 良 )
他者の生命を喰らわずして生きてはいけない人間の存在について、そうした宿命を持ちながら何故に存在するのかをエンターテインメントの物語に乗せて問うている、壮大な作品で、横尾忠則の装幀が素晴らしい名作です。
新世界より ( 貴志 祐介 )
ホラーというよりも、壮大なイマジネーションの世界が繰り広げられるSFと言うべきかもしれません。
本

関連リンク

ふたつの星とタイムマシン 畑野智美|集英社 WEB文芸 RENZABURO
一番最初は西野さん作・演出の『グッド・コマーシャル!!』という舞台を見に行ったときにロビーにいらっしゃるのを見て、次の一人芝居『ダイヤル38』の後にロビーでサインをもらったんです。
「ふたつの星とタイムマシン」畑野智美著|BOOKS
「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞し、その後吉川英治文学新人賞候補にもノミネートされた著者による、ちょっと不思議な近未来を描いたSF短編集。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です