原田 マハ

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文藝春秋

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39歳独身の歩は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、多額の借金が発覚した。ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログをスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、奇跡の物語。(「BOOK」データベースより)

映画に対する愛情がいっぱいの、ファンタジックな長編小説です。

 

歩はシネマコンプレックス建設プロジェクトのチーフだったのですが、会社内部の抗争に敗れて退社し、今勤めている「映友」という映画関係の会社に拾われて、映画に関する雑文を書いています。それは、父親が送った歩の文章が認められて採用に至ったものでした。

その父親は麻雀や競馬などのギャンブルが好きで母親を泣かせてばかりでしたが、ただ一つ、映画だけは大切にしていました。その父親が書いた映画に関する文章を映友のサイトに載せたところ、大反響があったのです。

それは、ローズ・バッドという人物の父親の文章に対する書きこみと、それに対する父親の反論というやり取りが人気になり、「映友」のサイトが世界的なブレイクを見せたものでした。

 

本書は映画好きにとってはたまらない作品です。まず、本書の序盤に出てくる映画が「イタリアの離島の小さな映画館を舞台にした、映画技師と少年の友情物語。」の「ニュー・シネマ・パラダイス」であり、主人公の歩がこの映画についてのエッセイを書く、という形で登場します。

この映画はエンニオ・モリコーネの音楽も素晴らしく、名画を特集する映画番組では必ずと言っていいほどに取り上げられる作品であって、また映画音楽でもあります。

「夏の夜空に咲く花火を・・・・・・、川の匂いと夜風を感じる川辺で見上げればひときわ美しいように、映画館で観れば、それはいっそう胸に沁みる。名画は、大輪の花火である。」と締めくくるその文章は映画好きの胸を打たないではおられません。

小説が好きで、そして漫画が、映画が好きでこのサイトで駄文を書いている私にとって、本書のような作品は夢のような物語です。映画に対する思いを文章で表現し、感動的な小説として成立しているのですから、作家という人種の凄さをあらためて感じます。

本書のように映画をテーマにした作品として 金城一紀の『映画篇』という作品があります。この小説も映画を取り上げてあり、映画に対する作者の想いが溢れている作品でした。

東京で学生生活を送った私はあちこちの名画座によくいきました。残念ながら名画を見たいから名画座に通ったわけではなく、名画座は入場料が安かったのです。ほとんど三本立てで三百円前後であったと覚えています。もしかしたら金額は間違っているかもしれません。それほどに遠い昔です。

蛇足ですが、 原尞の『そして夜は甦る』という作品を読んでいたら、高田馬場の「早稲田松竹」という映画館が物語の舞台になっていたのには驚きました。名画座と言えるかは疑問ですが、学生時代によくいった映画館の一つだったのです。

本書でも名画座が重要な要素として出てきます。「テアトル銀幕」というその名画座は主人公の父親の親友が経営している映画館であり、主人公も通った映画館です。

先に書いた文章でも述べられているように、本来、映画は映画館で見るべきだと思います。現在は懐具合との兼ね合いで、安く見ることのできるレンタルDVDでの映画鑑賞しかできていない私ですが、映画作品は、映画館の音響と、映画館の画面を前提に作られているものであり、本来映画館で見るべきものだと思うのです。

 

本書の物語は、こういう人が身近にいたら大変だろうと思うような、ギャンブルにはまった大人が書いた文章が世界的な人気となるという、このごろのインターネット社会では全く絵空事とまでは言えないものの、ファンタジーとしか言えない物語です。

でありながらも、そこで述べられている『フィールド・オブ・ドリームス』を始めとする文章はそれだけでも一読に値すると思います。

本書自体は、共に本屋大賞候補作となった本書の著者である原田マハの『暗幕のゲルニカ』や『たゆたえども沈まず』などの絵画小説とは異なります。

どちらかというと、『阪急電車』の 有川浩のような印象を受ける作品です。それだけ、文章のタッチが軽く感じられるということだと思います。

それはやはりテーマが、絵画に比べより娯楽性の強い映画に関わるものだからでしょうか。少なくとも、上記の絵画に関する作品は、画家本人の人間像に迫るというアプローチであるのに対し、本書は映画を受動的に楽しみ、その中から映像や音楽の美しさを堪能する、という作者の姿勢にあるような気がします。

いずれにしろ、映画という一般庶民の娯楽をテーマに、肩の凝らない読みやすい家族の物語として仕上げてある作品です。是非一度読んでもらいたい作品の一つです。

[投稿日]2018年05月22日  [最終更新日]2018年5月22日
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