私立探偵サム・スペードの事務所を若い女が訪れた。悪い男にひっかかり、駆け落ちした妹を連れ戻して欲しいとの依頼だった。スペードの相棒が相手の男を尾行するが、相棒も男も何者かに射殺されてしまう。女の依頼には何か裏があったのか…。やがて、スペードは黄金の鷹像をめぐる金と欲にまみれた醜い争いに巻き込まれていく―ハンフリー・ボガート主演映画で知られる、ハードボイルド小説の不朽の名作。改訳決定版。(「BOOK」データベースより)
ハードボイルド小説を語る上では避けては通れない、不朽の名作と言われる長編小説です。
探偵サム・スペードのもとに妹を連れ戻してほしいと女が来た。その依頼を受けた相棒のマイルズ・アーチャーが妹を連れているという男の尾行を始めたが、その夜、相手の男と共にアーチャーも殺されてしまう。サム・スペードは事件の裏に「マルタの鷹」という像の存在があることに気づく。
作者のダシール・ハメットは、実際に勤めていたピンカートン探偵社で培った探偵業務の経験を生かして、以後ハードボイルドと称される作風を確立したそうです。
それまでの推理小説の在り方を否定し、リアリティーを追求し、ハメットが自らの体験をもとに魅力的な人間像を造りあげました。それが本書の主人公であるサム・スペードです。
そのサム・スペードはあちこちに首を突っ込んで相手を叩きのめし、また逆に叩きのめされながらも、そこから何がしかの事実をつかみ取り、真実に近づいていきます。その行動の過程の描写は簡潔で暴力的であり、叙情性は全くありません。
本書を今回読み返してみて、「とても面白い」とは思えませんでした。
確かに面白くないとも言えないのですが、私が好きなハードボイルドとしての『ブラディ・ドール シリーズ 』の北方謙三、『飢えて狼の』志水辰夫などの作品を読み慣れていたからでしょうか、違和感を感じてしまいました。
本作はまるでハンフリー・ボガードの映画の世界です。明るい街中ではなく常に暗い裏町のイメージであって、場面が常に狭いのです。
本書は、事実を短文を羅列して描写するためか、行為をそのまま描くと言う意味で説明的であり、感情移入を拒まれている感じです。
そのためか、映画の世界に似る、という言い方は本末転倒ではあるのでしょうが、どうしても映画の印象が先行してしまいます。
まさに、それこそが狙いであり、ハードボイルドと言われる所以でしょう。
ハードボイルド小説の一方の雄と言われるR・チャンドラーの作品でも若干の違和感を感じはしたのですが、本作品ほどではなかったのですからやはりハメットとの相性なのでしょうか。
乾いた文体が好みの方にはたまらない一冊だと思います。