上絵師 律の似面絵帖 シリーズ(2018年03月25日現在)
- 落ちぬ椿
- 舞う百日紅
- 雪華燃ゆ
本シリーズの主人公は上絵師として身を立てようとしている二十歳すぎの娘で、名を律といいます。律には慶太という九歳の弟がおり、裏店に二人で住んでいます。二人の母親の美和は五年前に辻斬りに殺され、父親の伊三郎も二月前に川に落ちて亡くなりました。
主な登場人物としては、表店の葉茶屋青陽堂の、律の隣人である今井直之の手習い指南所で一緒に学んだ兄妹の涼太と香という幼なじみがいます。
律は涼太に恋心を抱いており、涼太もそれは同じです。香は二人の仲が進展しないため、何かと世話を焼きたがるのでした。
律の仕事である上絵師とは、「着物に花や鳥、紋様、家紋など、様々な絵を入れる」仕事です。
律は上絵師であった父伊三郎の手伝いをしながら自分も上絵師として身を立てるために修行をしていたのですが、その途も半ばで父が亡くなってしまいました。
上絵師としての観察眼と絵の腕を生かした似面絵のうまさに目をつけられ、知り合いの同心の頼みで犯人探しのための似面絵を書くことになり、物語として、単なる一人の娘の成長物語以上の幅をもたせることに成功しているようです。
本シリーズと似たシリーズとして、 高田郁の『みをつくし料理帖シリーズ』があります。ともに主人公が娘であり、弟の有無という違いはありますが独りで強く生き抜いていく主人公の成長譚だという点では同じです。
何よりも、文章の雰囲気が似ています。ただ、 高田郁のほうが人物や心象の表現に一日の長がある気はしますが、それは作家としての経験からしても比較する方が悪いというべきものでしょう。
このシリーズは2018年3月時点で未だ三冊しか出版されていません。当初は母親のみならず父親までも誰かに殺された疑いを抱いた律が、一枚の似面絵を手に父親の死の謎を探る様子が描かれ、この点が物語の一つの軸になっていくのかとも主ていましたが、その謎はすぐに明らかにされてしまいます。
ということで、今後この物語がどのような展開を見せていくものか、律と涼太の恋模様はどのように展開するのかも含め、今後の作品にも注目していきたいシリーズであり、著者にも注目していきたいと思っています。