彼女は幻だったのか?
今世紀最高の恋愛ミステリー!!作家デビュー5周年、
実業之日本社創業120周年記念作品圧巻のラスト20ページ!
驚愕し、感動する!!!
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の
碓氷は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。
外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる
碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を
通わせていく。実習を終え広島に帰った
碓氷に、ユカリの死の知らせが届く――。彼女はなぜ死んだのか? 幻だったのか?
ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜山手を
彷徨う。そして、明かされる衝撃の真実!?
どんでん返しの伝道師が描く、
究極の恋愛×ミステリー!!
2度読み必至!(「内容紹介」より)
本書は、主人公の研修医碓氷蒼馬の視点で全編が描かれている、2018年本屋大賞にノミネートされた、現役の医師の手による長編の恋愛ミステリー小説です。
プロローグ
第一章 ダイヤの鳥籠から羽ばたいて
第二章 彼女の幻影を追いかけて
エピローグ
本書冒頭のプロローグで丘の上の病院に駆けつける「僕」がいて、すぐに第一章の「ダイヤの鳥籠からはばたいて」が始まり回想の場面に入ります。
実習のために広島の病院から神奈川の富裕層向けの療養型のホスピスである「葉山の岬病院」へとやって来た僕、研修医の碓氷蒼馬は、最悪の脳腫瘍(膠芽腫)といういつ爆発するかもしれない爆弾を脳内にを抱えた、自分を濁らずにユカリと呼んで欲しいという弓狩環という名の女性と出会うのでした。
そのユカリは、自分が相続し有している莫大な財産を狙う親戚がいるとして、三階の病室から出ようとはせずに、ひとり絵を書いて暮らしていました。
莫大な借金を抱え、家族を捨て女と共に逃げた父親に対し憎しみを抱いて、金のために医者になるという碓氷でしたが、ユカリと話すうちに次第に彼女に惹かれていく自分に気が付くのでした。
本書は主に前後半の二章で成り立っていて、第一章は碓氷とユカリのその頃の状況と、次第につのる二人の秘めた恋模様が語られ、加えて碓氷の父親にまつわる秘密の解明というサイドストーリー的な話も語られます。
そして、第二章になると物語は一転し、ユカリの死という事実に直面した碓氷が、文字通り探偵役となってユカリの死の秘密の解明に奔走する姿が描かれるのです。
第一章は碓氷とユカリの恋愛模様が描かれる回想の恋愛物語であって、第二章は現在に戻りミステリー満載の物語が展開されると言えるでしょう。
本書は、何といっても作者が現役の医師であることによる臨場感のある医療現場の描き方にある、といいたいところですが、『チーム・バチスタの栄光』の海堂尊や『神様のカルテシリーズ』の夏川 草介のような描き方はそれほどにはありません。
勿論医学部一年生の時の救急救命部の見学の時の印象など、医師ならではの描写が随所にありはするのですが、余人では描けない、とまではいきません。
でも、この作者の他の作品などを調べると、「博覧強記の天才女医・天久鷹央が解き明かす新感覚メディカル・ミステリー」と銘打たれた『天久鷹央の推理カルテ』シリーズなど、現役の医者としての知識を生かした作品が数多く出版されているようで、本書『崩れる脳を抱きしめて』だけで判断してしまうのは間違いのもとと言えそうです。( 知念実希人のおすすめ小説7選 : 参照)
本書ではただ、そこまでの必要性がなかったから書いていないのだと、そのままに受け取るべきもののようです。
『神様のカルテシリーズ』はミステリーではなく、一人の青年医師の医師としての生き方を正面から問うている物語なので別としても、海堂尊の描く物語は、まさに医者ならではの観点で描かれているミステリーです。
代わりにというのも変ですが、ミステリーとしての出来は個人的には面白く読みました。特にどんでん返しの結末もかなりの意外性をもって読むことができましたし、細かな仕掛けもよく効いていたと思います。
でも、すべてに満足したというわけではなく、若干の物足りなさを感じました。それは、人物の書き込みが今ひとつ薄く、私の中で物語の世界観の構築が上手くいかなかったのかもしれません。
それは、碓氷のかつての恋人や勤務先の病院の院長や看護師たち、それにユカリの友人などといった脇を固める人たちの描き方にある様な気がします。
本来は本書について物足りなさを感じた原因をきちんと考察するべきなのかもしれませんが、それはもう個人の楽しみの読書ではなくなります。
単純に、若干の物足りなさは感じたけれども、それないに面白く読めた小説だった、という感想を述べておくにとどめます。