この苛立ち、この焦燥、この憎悪、この執着。剣呑で歪で異様な気配を纒う、同心信次郎と商人清之介。彼らの中に巣くう何かが江戸に死を手繰り寄せる。今は亡き父と向き合い、息子は冷徹に真実を暴く。疼く、痺れる、突き刺さる、「弥勒シリーズ」最新刊!(「BOOK」データベースより)
「弥勒」シリーズの第六弾長編小説です。
今回は、信次郎の父親である小暮右衛門の隠された過去が暴かれます。
とある両替商の内儀であるお美代の接待を受けた信次郎は、飲まされた酒に何か入っていたらしく、その帰りに島帰りの徳助という男に刺されてしまいます。その徳助も数日後水死体となって発見されます。調べていくと、徳助を島送りにしたのは信次郎の父親の右衛門であるらしく、右衛門を恨んでいた徳助であり、事件の真実は右衛門の悪事に結びつきそうな気配があるのです。そのうちに、お美代は亭主の両替商ともども店の火災で焼け死んでしまいます。
父親の悪事を暴くことにもなりかねない探索を続行することをも「面白い」と言い突き進む信次郎の心のうちが分からず、ついていけないと思う伊佐治で、信次郎からは探索をはずすとまで言われてしまいます。また、お美代に対する調べを清之介に依頼したりと、いつもながら三人は妙なところでつながっています。
父親の真実の貌を暴き出すという点では捕物帳としての謎解き、ということになるのでしょうが、それよりもやはり小暮信次郎、伊佐治、そして遠野屋清之介の三人の心の交錯こそが本書の醍醐味でしょう。
ただ、今回は信次郎メインで話は進むものの、繰り返される心象描写の連なりは、少しではありますが読んでいてマンネリ感を感じないでもありません。勿論、本書が物語として面白くないとは言うつもりもないのですが、いささか食傷気味であることも全く否定はできないところです。