小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。(「BOOK」データベースより)
この物語の中心となる三人の登場人物の心象の描き方が実にうまく、一気に物語に引き込まれました。
本書は冒頭で女の入水自殺があり、その女が遠野屋の女将のおりんだった、というところから始まります。そこに駆け付けた遠野屋主人の清之介は、お凛が自殺する筈は無く再度の探索を願いますが、その様子を見ていた信次郎は清之介という男が妙に気になるのです。
おりんは何故死なねばならなかったのか、それは清之介の過去に連なる物語であり、このシリーズを貫くテーマにもつながっていきます。
そして、次第に明らかになっていくその謎は、この物語の三人を中心とする人間模様の面白さと共に、緊張感のある文章で進む物語がミステリーとしての魅力も十分に勿論持っていることも示しています。
ただ、その魅力的である筈の心象の描き方こそが逆に問題であるとも言え、人によっては拒否反応を示すかもしれません。それほどに暗い。そして、受け取り方によっては、重い物語です。
三人の中でも、遠野屋主人である清之介に関してはよりその闇が深く、受け付けないという人がいてもおかしくはありません。その代わり、ということでもないでしょうが、同心の木暮信次郎は清之介に対して遠慮がありません。信次郎は清之介と顔を合わせるたびに今にも斬りつけんばかりに清之介に迫ります。しかし、信次郎自身にしても心に抱える闇があるのですから厄介です。
そうした二人の間をうまく取り持つのが岡っ引きの伊佐治です。もとは信次郎の父親木暮右衛門の手下だったのですが、信次郎が父親のあとを継ぐとそのまま信次郎の手下となり、信次郎の心の裡が読めないことが多々あってついていけないと思いつつも、何となく辞められずにいるのです。
遠野屋のおかみのおりんの死は清之介の過去に結びついていきます。清之介はそのことに次第に気付いていくのですが、信次郎たちに明かすわけにもいきません。清之介の哀しみばかりが深くなるのです。
今後の展開が楽しみな一冊でした。