浅田次郎

イラスト1
Pocket


日輪の遺産』とは

 

本書『日輪の遺産』は1993年8月に刊行されて2021年10月に新装版として文庫化された、文庫本で576頁の長編小説です。

太平洋戦争終戦時の財宝の行方をめぐる人々の行いを描く、感動的な、しかし浅田次郎作品としては今一つの物語でした。

 

日輪の遺産』の簡単なあらすじ

 

その額、時価200兆円。敗戦後の日本を復興に導くため、マッカーサーから奪った財宝を隠す密命を日本軍は下す。それから47年。不動産事業で行き詰まった丹羽は、不思議な老人から財宝の在り処を記した手帳を託される。戦争には敗ける。しかし日本はこれでは終わらない。今こそ日本人が読むべき、魂の物語。(「BOOK」データベースより)

 

丹羽明人は競馬場で知り合った老人の最後を看取り、お礼にと一冊の手帳を渡された。

ボランティアの海老沢と共に老人の大家だという資産家の金原と老人についての話をするうちに、手帳に書かれているとんでも無い話が全くの虚構でも無さそうなことに気づくのだった。

 

日輪の遺産』の感想

 

本書『日輪の遺産』は1993年出版の作品であって著者のごく初期の作品であり、残念ながら浅田次郎の作品にしては完成度が今一つと感じました。

本書は本書として面白いのですが、『壬生義士伝』を始めとする新選組三部作や『天切り松-闇がたりシリーズ』といった素晴らしい作品を読んだ後ではどうしてもこの著者に対する要求が高くなってしまい、一般読者の勝手な要求としてそう思ってしまいました。

 

 

終戦時の真柴司郎少佐小泉重雄中尉望月庄造曹長の命令に従いマッカーサーの財宝を隠そうとする三人の行動と、老人の手帳に記された事実に振り回される現代の丹羽明人海老沢金原という三人の姿とが交互に語られます。

頁が進むにつれ終戦時と現代との関連が次第に明かされていく仕組みはいかにも浅田次郎ではあります。

 

ただ、例えば終戦時の真柴少佐たちが財宝の隠匿作業の手伝いに少女たちを使う理由が、秘密を最小限のものとするためなどと少々分かりにくい理由だったり、クライマックスでのマッカーサーの行動が不自然だったり、と今の浅田次郎の小説では見当たらないだろう不自然さが少なからずあるのです。

著者は「大勢の登場人物が使いこなせず、視点が不安定となり、ときにはあいまいにもなっている。センテンスの配分が悪く、文末の処理も稚拙である。」とがあとがきで書いておられます。

「視点の曖昧さ」等のために物語として消化不足と感じるのでしょうか。改めて現在の浅田次郎の力量で書かれた本作品を読んでみたいと思いました。

 

色々ケチをつけた上で変かもしれませんが、それでもやはり浅田次郎の物語です。

今の浅田次郎の水準に比して完成度が低いというだけであり、面白い小説ではあります。

 

ちなみに、本書『日輪の遺産』を原作として、堺雅人や中村獅童といったキャストで映画化されています。
 

[投稿日]2014年12月30日  [最終更新日]2022年2月14日
Pocket

おすすめの小説

心に残る戦争小説

戦争と人間 ( 五味川 純平 )
激動の中国大陸、ファシズムの日本を舞台に、綿密な取材と圧倒的な筆力で描かれる戦争の構造、人間の条件。戦争文学の一時代を画す、不滅の金字塔
落日燃ゆ ( 城山 三郎 )
戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。
不毛地帯 ( 山崎 豊子 )
拷問、飢餓、強制労働――11年に及ぶ地獄のシベリア抑留から生還した壹岐正は、第2の人生を商社マンとして生きる事を決意する。「商戦」という新たな戦いに身を投じ、戦後日本の高度成長を陰に陽に担った男を活写する、記念碑的長編。
出口のない海 ( 横山 秀夫 )
甲子園の優勝投手・並木浩二は大学入学後、ヒジを故障。新しい変化球の完成に復活をかけていたが、日米開戦を機に、並木の夢は時代にのみ込まれていく。
終戦のローレライ ( 福井晴敏 )
第2次大戦末期、主人公の海軍新兵・折笠征人は、未だ知らされぬ任務のため親友の清永と広島の呉軍港に降り立つ。そこでは、1隻の潜水艦が彼らを待っていた。その潜水艦こそは、戦争の形態を根本から変えてしまうという秘密兵器「ローレライ」を搭載していたドイツ軍のUボートだった。

関連リンク

浅田次郎が語る、戦争と作家 | カドブン
浅田次郎『長く高い壁 The Great Wall』の角川文庫化と火野葦平『麦と兵隊・土と兵隊』の復刊を記念して、浅田次郎さんのインタビューをお届けします。
日輪の遺産 : 作品情報 - 映画.com
ベストセラー作家・浅田次郎の同名小説を、「半落ち」の佐々部清監督が堺雅人主演で映画化。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です